終盤の"稼ぎ"で競り勝て!
Level1を実践すれば、そこそこ良い勝負ができるようになっていると思います。
しかし上手い人相手だと、大差で負けることは避けられたとしても、どうしてもあと一歩のところで間に合わず、相手に先にゴールされてしまいます。
あと数手差なのに勝てない。その差を埋めるための、ゲーム終盤における考え方を紹介します。
中級者以上になるために必要なことは、数えること(Counting)です。
何を数えるのか?歩数と手数差です。
まず相手と自分のゴールまでの歩数をそれぞれ数えます。
その二つの歩数の差を取り、このままだとどちらが"何歩差"で勝つのかを把握します。
さらに盤面状況とお互いの板の枚数から、お互いがお互いの進行をどれだけ妨害できるか厳密に数字として把握し、それを足して、最終的に"何手差"でどちらが勝つのかを計算します。
例に移る前にもうひとつ説明しておかなければならない重要なことがあります。
先攻と後攻の違いです。
このゲームは、おそらくですが、先攻が若干有利です。しかし後攻が必ず全ての場合において不利かと言われるとそう断言もできません。
ジャンプ要素があるためです。
最初の盤面からお互いが板を置かずに真っ直ぐ進んだ場合、黒が一度ジャンプするので、黒が勝ちます。
また板を置いたとしても、板の置く効率が互角で、道がお互いが出会うことになる一本道になった場合、やはりジャンプの差で黒が勝ちます。
このように一概に先攻が有利とは言えません。しかし限定された状況にならない限り、つまりジャンプさえされなければ、歩数的には白が勝ちます。
この先手の有利さを、0.5手得と表現することにします。
ゴールまでが同じ歩数の場合は先番の白が勝つので、最初から白は0.5手得をした状態から始まるという意味です。
0.5を足すことで、ゲームがいくら進んでも手数差が同じ数字にはならないので、引き分けがないことも表現できています。
それでは例を見てみましょう。
赤くハイライトされている板は、黒が先程置いたものです。次は白の番です。
ボード下部の情報バーに書いてある通り、黒は板を使い果たしています。白はあと3枚残っています。
さて、まずは白と黒のそれぞれについて、ゴールまでの歩数を数えましょう。
白が13歩、黒が10歩ですね。
3歩差ですが、白は0.5手得しているので、この盤面だけ見れば2.5手差で黒の勝ちです。
ここで、お互いが残りの板でどれだけ妨害できるかを足し引きます。
黒は残り0枚なので考えることはありません。
白は残り3枚です。この盤面状況から、白は3手稼げます。
この"稼ぎ"については、次に項を改めて説明します。ここでは、白が板を3枚適切に置くことによって、黒が3歩分余計に歩かなければならない、と理解して頂ければ結構です。
盤面状況では2.5手差で黒の勝ちでしたが、板を考慮すると白が3手稼げるため、2.5-3、0.5手差で白の勝ちになりました。
本当にそうなっているか、確かめてみましょう。
白が0.5手差で勝っているのが分かるでしょうか。
上の棋譜は両方59ターンで終了していますが、この59ターン目の白番で白がゴールしたため、60ターン目の黒番まで番が回らなかったのです。ゲームが白番で始まって白番で終わっているため、白が1手多く指しています。これが0.5手差です。
このように、終盤はだいたいのルートが定まり、残りの板で何手分相手を妨害できるか、という計算が重要になってきます。
相手より早い段階で終局図を読むことで、より有利にゲームを展開させることができるでしょう。
さて数えることの重要性が分かったところで、次に覚えることは稼ぎ(Kasegi)です。
稼ぎとは、その名の通り、板を置くことで手数差を稼ぐことです。
逆を損と呼ぶことにします。
囲碁(Go)のヨセ(Yose, Endgame)に似たものだと思ってください。囲碁は石を"寄せ"るのでヨセですが、こちらは板を寄せるわけではない(駒の近くには置くことは多い)ので、"稼ぎ"という表現にしました。
何度もプレイしているとよく見るパターンは見ただけで何手稼ぎなのか分かるようになりますが、最初からパターンを覚えようとするのはオススメしません。
自分で計算できるようになれば、どのような状況でも対応できるからです。
考え方として重要なのは、
以下は、どのような盤面状況で、どのような板の置き方をすると、何手分稼げるか、をパターン化します。
基本形は1手稼ぎと3手稼ぎの2つだけですが、それらを組み合わせるパターンもあります。
妨害をしているようにみえて、実は稼げていないパターンもあります。
各稼ぎに対する防御についても同時に考えます。
ではひとつずつ検討していきましょう。
基本形のひとつです。板1枚を置くことで、1手差分稼ぎます。
比較しやすいように、白の駒黒の駒両方を下端に並べてみました。両方とも上をゴールとします。
両方とも上を目指して歩いていきますが、白だけ板を持っていて、黒の駒を邪魔します。
結果何手得したのか、視覚的に分かりやすいと思います。
白が1手分稼げているのが分かるでしょうか。
板を置く前は両者足並みを揃えて歩いていますが、白が板を置いたため、黒が一歩分遅くなりました。
白は板を1枚置いたターンは駒を前に進めることはできないので、置いたことによって-1手です。
黒は板を置かれたことにより本来1手で行けた位置に3手かかるようになってしまいました。+2手です。ここで言う本来1手で行けた位置というのは、4行目のことです(ゴールまでの歩数が重要なので、列は関係ありません)。
-1手と+2手で+1手稼げている、というわけですね。
以下も1手稼ぎになっています。
こちらも同じですね。
重要なのは、相手が何手余分に動くことになるかです。今回も+2手となっています。
板を置くために使ったターンを引いて、+1手稼ぎです。
ちなみに、1手稼ぎに対する防御は意味がありません。というか板の無駄です。
防御するために1ターン使うので、白が何もしなくても結局1手稼がれてしまっています。
この場合は黒が1手損して、白が1手稼げるポイントがなくなったと表現しても良いかもしれません。
いずれにせよ白視点から見れば、+1手稼ぎです。
本来白が使うはずだった板も自分が使ってしまい、いいことがありませんね。
それでは1手稼ぎとなる盤面をたくさん見てみましょう。
自分を白、相手を黒とします。白は奥がゴールです。
赤くハイライトされている板が白が最後に置いたものです。この板によって1手稼ぎとなっています。
1手稼ぎは堅実な稼ぎです。
これだけで勝負が決まることは少ないですが、積み重ねると無視できなくなります。
後述の3手稼ぎの方がおいしいのでまずはそっちを狙いにいきますが、できなかった場合、こちらで地道に稼ぐことになります。
基本形のひとつです。板1枚を置くことで、3手差分稼ぎます。
先程と同じように、白黒両方の駒を同じ方向(上)へ向かってレースさせます。
白は板を1枚置いただけですが、黒は3手も遅れてしまいました。
白が板を置くコストの-1手は変わりません。
黒は、h3→g3に行くために本来1手だけだったのが、5手かかるようになってしまいました。5-1=4手分、余計に動く手が増えたということです。
よって黒の+4手と白の-1手で白の3手稼ぎとなります。
次の例もやはり3手稼ぎです
こちらの3手稼ぎですが、1手稼ぎ2つの組み合わせという見方もできます。
一見無意味なHg4の板ですが、Hh3の板の登場によって、あたかも後から1手稼ぎの板として置いたかのように機能しています。
1手稼ぎが2回なら2手稼ぎじゃないの?と思うかもしれません。しかし、Hg4は"最初から置かれていた"のです。つまりターンを消費していません。
でもゲームの序盤か中盤で置いたんでしょ?なら結局得してなくない?という意見もあるかと思いますが、そもそも"稼ぎ"はルートがある程度決まった状況から考え始めます。その時の盤面がスタート地点なのです。
白の3手稼ぎに対して黒の防御を考えてみます。
黒は板1枚と1ターン使うことによって、白の3手稼ぎができるポイントを潰しました。
白はそのまま動くので、黒の板を置いた1ターン分、1歩遅れて歩くことになります。
結果、白の+1手稼ぎとなりました。
白の+3手稼ぎを+1手稼ぎにできた、上出来だと思うかもしれませんが、前者は白の板が1枚減っていて、後者は黒の板が1枚減っていることを忘れてはいけません。
状況に応じて板を出し惜しみする場面なのか、そうでないのか判断して、適切に防御するようにしましょう。
また、盤面によって防御ができないという場合も珍しくありません。
以下が3手稼ぎとなる例です。
先程と同じく、自分が白で相手が黒、白のゴールは奥で、赤いハイライトが3手稼ぎの手です。
こうやって並べてみると、厳密に数えなくてもどのように板を置けば3手稼ぎになるのか、イメージとしてなんとなく感覚を掴めるかもしれません。
3手稼ぎはとても重要です。Quoridorというゲームは3手稼ぎを多く置けた方が勝ちと言ってもいいぐらいです。
中盤の時点でルートがぼんやり見えていた場合、いかに3手稼ぎが多くできる盤面に持っていくかを考えつつ打つと、終盤で一気に差が開いて勝てます。
盤面状況にもよりますが、特に終盤は1手稼ぎと3手稼ぎの応酬になることが多いです。
相手の3手稼ぎには、基本的にこちらも3手稼ぎで対抗しましょう。防御すると相手の1手稼ぎになる上、板がもったいないです。
こちらが3手稼ぐことができないために、相手の3手稼ぎに対して1手稼ぎで無理に対抗しようとすると、相手の1枚に対してこちらは板が3枚必要になります。そのような展開は望ましくないですね。
一見妨害しているように見えて、実は全く稼げていない手です。
損はしていないので、1手無駄にしたというわけではありません。しかし、板は1枚無駄になっています。
白は黒の前方に板を置きましたが、その置いたターンで横に逃げ、結局1手も稼げていません。
白が板を置いたことによる-1手と、黒が余分に動くことになった+1手で、-1+1=0となっています。
板を1枚無駄にしただけですね。
上は単純化した例なのでこの0手稼ぎが無意味に思えるかもしれません。
しかし、実際のゲームの複雑な盤面ではこれが嬉しい時もあります。
後々の展開のためにあそこに板を置いておきたい、しかし無意味に置くと1ターン損してしまう、という状況で、この0手稼ぎは手を損することなく板を置けます。この"損をしない"というのは、特に接戦において効果を発揮します。
1手稼ぎや3手稼ぎをするために、先にこの0手稼ぎで状況をつくるといったケースはよく見かけます。
稼いだと思ったら実は1手損していたというパターンもあります。
白が黒を妨害していますが、これはしているつもりになっているだけで、無意味にターンと板を消費しているだけです。
この板の置き方は黒に対して1手稼ぎになっていますが、白にとっても1手稼ぎになっています。黒はターンを使って1手稼いだわけではないので、これは白の1手損です。
置けば置くほど損です。結果、これだけ差が開いてしまいました。
さすがにこのような例だと損しているのは分かりやすいですが、複雑な盤面になると気付きにくいものです。
相手を何手妨害できるのかと一緒に、自分が何手妨害されるのかも計算に入れるようにしましょう。
ジャンプは一手稼ぎです。
面白い盤面をひとつ紹介しましょう。
次は白の番です。
お互いのゴールまでのルートが共通なため、必ずどこかでジャンプすることになります。
白が前に進むと黒がジャンプして1手稼いでくるので、白は適当に板を置きます。
しかし、黒は白の打った手をコピーします。対称な場所に板を置けば良いのです。
そうこうしているうちに板が両方なくなります。先手の白は前に動かざるを得ないので、黒がジャンプして1手稼ぎ、黒の勝ちです。
白は黒に先にジャンプさせて、黒のミスを待つという手は一応残されています。
ジャンプで稼ぐことは、後攻が先攻に対し有利に立てる唯一の方法です。後攻ならば積極的に狙っていくべきです。
このように綺麗に対称な盤面になることは稀ですが、ルートが共有されたり、まだルートが出来上がっていない状態でも駒同士が近付くことは少なくありません。
これまで、特に重要だと思われる稼ぎを紹介してきました。
しかし稼ぎとは本来パターン化されるものではなく、その時の盤面状況と板の枚数から計算されるものです。
以下では変則的な場合の例を挙げます。今まで通り赤いハイライトの板が白が最後に置いたものです。
何手稼ぎになっているのか計算してみましょう。
左から、白の、+2手稼ぎ、+5手稼ぎ、+7手稼ぎです。
真ん中と右はまだ白のルートが決まっていないので微妙なところですが、おそらくこの手で自分自身の進行を妨害することはないと思われるので、相手の妨害の分だけで計算しました。
これまでいろんな稼ぎを見てきました。
しかし大事なのは、自分で稼ぎを計算して、今から打とうとしている手が効率的か効率的でないか判断することです。
稼ぎを数字として捉えると、意図せぬ0手稼ぎや1手損などの悪手を減らすことができます。
また、よく見るパターンとして1手稼ぎと3手稼ぎぐらいは頭に入れておくと、何手差で勝ちか負けかの計算が楽になります。
1手稼ぎは3手稼ぎに比べて効率が悪いです。しかし終盤になると稼げるポイントが少なくなることも多いので、板の枚数と相談して稼げるところは稼いでおきましょう。
終盤に入ると、歩数と稼ぎの計算に0.5を加えて、お互いが最善手を打てばどちらが何手差で勝つのかあるいは負けるのかが分かる段階が来ます。
長くなりましたが、最後に、これらはあくまで終盤の打ち方であることを忘れないでください。
稼ぎだけで勝てれば苦労はしません。本当に重要なのは、序盤から中盤にかけての盤面構成、ゲーム進行です。
終盤で稼げるのはあくまで数手だけです。大勢が決してしまった後に稼ぎで何とかしようとしても、もう遅いことが多いです。
終盤は"発想"ではなく"計算"です。誰でも正しく考えれば最適解が見つかります。
間違えないように打ちましょう。